「大阪市内の実家が長屋(連棟住宅)で、隣と壁がつながっている。売れるのか、そもそも建て替えができるのかも分からない」
長屋は、関西とくに大阪で多く残ってきた住まいの形です。ただし売却の場面では、一戸建てともマンションとも違う論点が出てきます。隣戸と壁を共有していることと、路地の奥にあることが多いことの2つです。
この記事では、大阪市が公表している令和5年住宅・土地統計調査の結果と、大阪市の建築基準法の取扱い・許可基準をもとに、長屋を売るときの実情を整理します。一般的な再建築不可そのものの解説は再建築不可物件の出口戦略にまとめているので、ここでは大阪の長屋に固有の部分を中心に扱います。
大阪市の長屋は30年で5分の1に減った
まず、大阪市の長屋がいまどれくらい残っているのかを公式統計で確認します。大阪市が公表した令和5年住宅・土地統計調査(確報)の結果では、市内の**長屋建は3万1,200戸、住宅全体の2.1%**です。
| 調査年 | 長屋建の住宅数 | 住宅全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 平成5年 | 16万2,560戸 | 15.7% |
| 平成15年 | 8万8,370戸 | 7.4% |
| 平成25年 | 4万3,700戸 | 3.3% |
| 平成30年 | 4万5,800戸 | 3.3% |
| 令和5年 | 3万1,200戸 | 2.1% |
平成5年の16万2,560戸と比べると、30年で約5分の1です。直近の5年だけを見ても、前回調査(平成30年)から1万4,600戸・31.9%の減少でした。同じ期間に一戸建は5.8%、共同住宅は13.7%増えているので、減っているのは長屋だけという状況です。
残っている長屋は、区によって偏っている
区別に見ると、長屋がどこに残っているかがはっきり分かれます。
| 区 | 長屋建の住宅数 | 住宅全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 生野区 | 4,590戸 | 6.5% |
| 西成区 | 3,800戸 | 5.8% |
| 東住吉区 | 3,040戸 | 4.9% |
| 平野区 | 3,020戸 | 3.3% |
| 住吉区 | 2,170戸 | 2.6% |
| 阿倍野区 | 1,650戸 | 3.0% |
| 東成区 | 1,630戸 | 3.4% |
| 港区 | 1,530戸 | 3.6% |
割合でも戸数でも生野区が最も多く、西成区、東住吉区が続きます。一方、北区・中央区・西区・浪速区では長屋の割合が0.3%以下です。
この減り方は、裏を返せば「長屋は取り壊されて別の建物に替わってきた」ということでもあります。ただし次に見るとおり、長屋は一戸だけを切り離すのが簡単ではないため、減り続けている一方で、残っている一戸をどう処分するかは難しくなっているのが実情です。
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建築基準法上の「長屋」とは何か
大阪市は「大阪市建築基準法取扱い」(令和8年4月版)のなかで、大阪府建築基準法施行条例第6条に関する取扱いとして、長屋を次のように定めています。
長屋とは 2 以上の住戸又は住室を有する建築物で隣接する住戸又は住室が開口部のない壁又は床を共有し、廊下、階段等の共用部分を有しないもので各戸の主要な出入口が道路又は有効幅員 3m以上の敷地内通路に面し、次の規定に適合しているものをいう。
続けて、次の4つが挙げられています。
- 原則として同一の構造であること
- 界壁の接続長さは階数の1/2以上で、かつ各階平面の壁長の1/2以上であること
- 界壁は原則として共用するものであること(各戸が別構造とならないものは二重でもやむを得ない)
- 各戸の建ぺい率はおおむね同一であること
重層長屋(上下に住戸が重なる形)も長屋の一形態として扱われます。
ここで押さえておきたいのが、マンション(共同住宅)との違いです。長屋には廊下や階段といった共用部分がありません。各戸が直接、道路または敷地内通路に出入りします。そのため区分所有建物として管理組合が置かれることも通常なく、隣戸との関係は「組合のルール」ではなく所有者同士の話し合いで決まります。これが売却時の難しさの出発点です。
なぜ切り離しに隣戸の同意が要るのか
長屋の一戸だけを解体することを「切り離し」と呼びます。買主が更地を望むときなどに検討されますが、実務では隣戸の所有者の同意を得たうえで進めるのが通常です。理由は大きく2つあります。
1つ目は、壁が共有されていること。 上の③のとおり、長屋の界壁は原則として共用するものとされています。自分の戸を解体すれば、隣戸の壁がそのまま外壁として露出します。雨仕舞いや断熱、見た目の補修をどうするかという問題が必ず生じ、その費用負担を決めずには進められません。
2つ目は、残った建物の要件に影響しうること。 ②の界壁の接続長さの要件(階数の1/2以上かつ各階平面の壁長の1/2以上)は、長屋として扱われるための条件です。切り離しによって残る建物の形が変われば、この要件や①の「同一の構造」との関係が問題になることがあります。どう判断されるかは個別の建物によるため、計画の段階で大阪市の建築指導の窓口に確認するのが確実です。
切り離し後の補修まで含めた費用感は、空き家の解体費用の内訳と相場もあわせて確認してください。なお、隣戸の所有者に同意する義務があるわけではありません。同意が得られない場合は、切り離しを前提にしない売り方を考えることになります。
路地奥の長屋と再建築:大阪市の43条2項2号許可の基準
長屋のもうひとつの論点が接道です。大阪市の説明では、建築基準法上、建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないのが原則です。路地の奥にある長屋はこの要件を満たさないことがあり、その場合は特定行政庁の認定・許可がなければ建て替えができません。
大阪市は「建築基準法第43条第2項第2号許可取扱要綱」(平成11年5月1日制定、令和2年2月1日最近改正)で、許可の基準を定めています。許可の対象になる「通路等」の主な要件は次のとおりです。
- 幅員は1.8m以上。ただし大阪府建築基準法施行条例第6条の規定が適用される建築物は幅員3m以上、同条例第66条が適用される建築物は幅員4m以上
- おおむね20年以上、一般の通行の用に供されてきたものであること(公共用通路を除く)
- 現に一般の通行の用に供されていること
- 側溝、縁石、塀等により通路境界が明確であること
- 両端が建築基準法第42条の道路に接続していること。ただし、道路から敷地までの延長が原則35m以下、幅員6m以上、終端が公園・広場・河川敷等に接続のいずれかに当たる場合は袋路状通路でもよい
さらに建築物側にも要件があり、敷地面積は原則60㎡以上(従前と同一の敷地での建替えは除く)、用途は一戸建ての住宅、兼用住宅、または建替えによる従前の建築物と同一の用途、地階を除く階数は3以下、耐火建築物等または準耐火建築物等であること、などが定められています。
長屋にとって重要なのは、太字にした**「条例第6条が適用される建築物は幅員3m以上」**の部分です。長屋は府条例第6条の対象なので、路地が1.8mあれば足りる一般の住宅とは違い、3m以上が求められます。「隣の一戸建ては建て替えられたのに、うちの長屋はできない」ということが起こり得るのはこのためです。
また、用途の要件により、許可を使った建て替えでは一戸建ての住宅か従前と同一用途(=長屋)が基本になります。長屋を壊してアパートを建てる、といった計画はこの枠組みでは通りません。該当するかどうかは、大阪市計画調整局建築指導部の窓口で確認できます。
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大阪の長屋を売る3つの選択肢
① 長屋の一戸として、そのまま売る
最も手数が少ない方法です。切り離しも建て替えもしないので、隣戸との調整が要りません。買主は現況のまま使う人や、賃貸に回す人、リノベーションを前提に買う人が中心になります。
国土交通省「不動産取引価格情報」の2021〜2025年のデータでは、長屋の多い8区(生野・西成・東住吉・平野・住吉・阿倍野・東成・港)の一戸建て取引は計2,664件、価格の中央値は2,500万円でした。ただし生野区は1,850万円、西成区は2,050万円と低く、どちらも**1,000万円以下の取引が全体の33%**を占めます。築古・狭小の物件が実際に動いている市場だということです。
② 隣戸とまとめて売る
長屋が数戸つながっていて、所有者同士の関係が良好な場合は、連棟をまとめて一体の土地として売る方法があります。まとまった敷地になれば接道の条件も変わりやすく、買主の選択肢が広がります。手間はかかりますが、一戸ずつ売るより条件がよくなることがあります。
③ 現況のまま買い取ってもらう
切り離しの同意が得られない、再建築の可否がはっきりしない、相続で早く整理したいといった場合は、現況のまま買い取る事業者に相談する方法があります。仲介で一般の買主を探すのとは値段の付き方が違うため、空き家買取の相場と仲介との違いで考え方を確認したうえで比べてください。大阪府内の市区町村別の相場は大阪府の空き家売却ガイドから見られます。
よくある質問
Q. 長屋とマンション(共同住宅)は何が違いますか?
A. 大阪市の取扱いでは、長屋は隣接する住戸が開口部のない壁や床を共有し、廊下・階段等の共用部分を持たない建築物とされています。各戸が直接、道路または有効幅員3m以上の敷地内通路に面して出入りします。共用部分と管理組合があるマンションとは、隣戸との関係の決め方が異なります。
Q. 隣の同意がなくても自分の家だけ解体できますか?
A. 長屋の界壁は原則として共用するものとされており、解体すれば隣戸の壁が外壁として露出します。補修の費用負担や、残る建物が長屋としての要件を満たすかという問題が生じるため、実務では隣戸の所有者の同意を得て進めます。個別の判断は大阪市の建築指導の窓口や弁護士に確認してください。
Q. 路地の幅が2mあれば建て替えできますか?
A. 長屋の場合は難しいことがあります。大阪市の43条2項2号許可の基準では通路等の幅員は1.8m以上が原則ですが、大阪府建築基準法施行条例第6条が適用される建築物は幅員3m以上とされています。長屋はこの条例の対象です。
Q. 再建築できない長屋でも売れますか?
A. 建て替えができない物件でも、現況のまま使う買主や、買い取る事業者がいます。生野区・西成区では1,000万円以下の取引が全体の3分の1を占めており、価格帯が合えば動いている市場です。ただし金融機関の融資が付きにくいため、買主は限られます。
まとめ
- 大阪市の長屋建は令和5年で3万1,200戸(住宅の2.1%)。平成5年の16万2,560戸から30年で約5分の1に減った
- 残っているのは生野区(4,590戸・6.5%)、西成区(3,800戸・5.8%)、東住吉区(3,040戸・4.9%)に偏っている
- 大阪市の取扱いでは、長屋は界壁を共有し共用部分を持たない建築物。界壁の接続長さは階数の1/2以上かつ各階平面の壁長の1/2以上とされる
- 切り離しは、壁の補修負担と残る建物の要件の両面から、隣戸の所有者の同意を得て進めるのが通常
- 路地奥の建て替えに使う43条2項2号許可では、通路等の幅員は1.8m以上が原則だが、府条例第6条が適用される長屋は3m以上。敷地面積60㎡以上、用途は一戸建て住宅等といった要件もある
- 売り方は「一戸のまま売る」「隣戸とまとめて売る」「現況のまま買い取ってもらう」の3つ。切り離しの可否を調べる前に、現況での価格を把握しておくと判断しやすい
建て替えの可否や許可の見込みは、大阪市計画調整局建築指導部の窓口で確認できます。相続登記や隣戸との取り決めは司法書士・弁護士、税の扱いは税務署や税理士にご確認ください。